yaruo:

【概 要】

ビッグバン宇宙論によると、宇宙は約137億年前、目に見えないほどの小さな点から大爆発とともに生まれたと考えられる。この理論は、宇宙背景輻射(うちゅうはいけいふくしゃ)※2や元素の組成などの観測データによって強く支持されている。一方、宇宙全体が小さな点であるような状況は、アインシュタインの一般相対性理論の適用限界を超えており、宇宙が実際どのように誕生したかを明らかにすることは、これまで成功していなかった。

素粒子の究極理論とされる「超弦理論」においては、すべての素粒子を極めて小さな「弦」の様々な振動のしかたとして表すが、その中には重力を媒介する粒子も含まれ、一般相対性理論を素粒子のスケールまで自然に拡張することができる。このことから超弦理論を用いれば、宇宙誕生の様子を解明できると期待されているが、弦の間に働く相互作用が強いため具体的な計算は難しく、様々なモデルやシナリオに基づく議論がなされる状況がこれまで続いていた。
特に、超弦理論においては、9次元※3の広がりを持つ空間が予言されており、我々の住む3次元空間とどう折り合いがつくのかは、大きな謎だった。

今回、西村淳(高エネルギー加速器研究機構・准教授)、土屋麻人(静岡大学・准教授)、金相佑(大阪大学・特任研究員)からなる研究チームは、超弦理論に基づき、宇宙誕生の様子をスーパーコンピュータによってシミュレーションすることに成功した。その結果、宇宙は最初9次元の空間的な広がりを持っていたが、ある時点で3方向だけが膨張し始めることが示された。
なお、本研究成果は、米国の科学誌『フィジカル・レビュー・レターズ』に2012年1月6日号(オンライン版1月4日)掲載予定である。

【研究内容】

本研究では、弦の相互作用を表す、大きなサイズの行列(IKKT行列模型※4)を効率的に数値計算する手法を確立し、超弦理論に現れる9次元空間の様子が、時間とともにどう変化するかを計算した。
図は、9方向の空間的な広がりを、時間の経過に対してプロットしたものである。宇宙の始まりに向かって過去に遡ると、確かに空間は9次元的に広がっているが、ある時点を境にして、3次元方向だけが急速に大きくなることが示された。

この結果により、超弦理論の予測する9次元空間から、実際に我々の住む3次元空間が出現することが、世界で初めて解明された。
今回の計算には主に、京都大学基礎物理学研究所のスーパーコンピュータ「日立 SR16000」(理論演算性能 90.3テラフロップス)が用いられた。

【本研究の意義】

一般相対性理論を素粒子のスケールまで拡張する究極理論として、超弦理論が提唱されてから40年近くになるが、具体的な計算の難しさから、その実在性や有用性は明らかでなかった。
本研究成果により、時空の次元の謎に対して新しい理解が得られたことは、超弦理論の実在性を示すものである。

また本研究により、コンピュータを用いた超弦理論の新しい解析手法が確立したことは、この理論を様々な問題に応用する可能性を切り開くものである。例えば、宇宙初期に起こったと考えられているインフレーション※5や、今年のノーベル物理学賞の対象となった宇宙の加速膨張※6などの理論的解明が挙げられる。また、宇宙観測で示唆される暗黒物質や、LHC実験による発見が期待されるヒッグス粒子※7など、素粒子理論に残された謎の解明において、超弦理論がさらに発展し、重要な役割を果たすことが期待される。

(via wonderthinkanswer)